「なかなか言うことを聞かない」「勝手に動いてしまい迷惑をかけている」「無口で自分のことを周りに伝えられない」このようなお子さんをお持ちで悩んでいる保護者の方も多いと思います。
なかには個人面談の際に担任から「特別支援教育」についての打診があり、びっくりしたり、不安になる保護者もおられるのではないでしょうか。
特別支援教育とはいったいどんなものなのか?
どんなことが指導内容なのか?
わからないことだらけでは、不安になられるのも当然です。
しかし、「特別支援教育」の中身は本来どんな子にも適応可能な、丁寧で優しい指導なのです。
そして特別指導教育の現場は、通常の授業で苦労している子どもたちが自信を付け、生きていくための工夫を体験する場であることに他なりません。
今回は「特別支援教育」の特徴や指導内容に関して、一部ですがご紹介していきます。
現場での指導方法や内容を知れば、おうちでのお子さんへの接し方も工夫ができ、今までとは違ったお子さんへの見方が生まれますよ。
※この記事では東京都における特別支援教育の中の≪巡回指導≫を中心にお伝えしています。
※各自治体によって「特別支援教育」の制度や内容がかなり異なる場合がありますので、詳しくはお住まいの自治体の教育相談所におたずねになることをお勧めします。
特別支援教育とは
特別支援教育は文部科学省では以下のように定められています。
「特別支援教育」とは、障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うものです。
(文部科学省のサイトより引用)
平成17年において、既に通常学級に6%以上の子どもたちが発達上の問題を抱えているというデータがあります。
また、平成19年4月からは、「特別支援教育」が学校教育法に位置づけられ、すべての学校において、障害のある幼児児童生徒の支援をさらに充実していくこととなりました。
さらに平成27年には以下のようなデータが出ています。
発達障害(LD・ADHD・高機能自閉症等)の可能性のある児童生徒:6.5%程度※の在籍率(通常の学級に在籍する学校教育法施行令第22条の3に該当する者:約2,100人(うち通級 : 約250人))
このような状況を重く見て、東京都では平成28年度から初等教育(小学校)の全校に[特別支援教室]という新しい制度を開始し、こういう子供たちへの取り組みが新たに動き始めました。
特別支援教育の具体的な対策として、合理的配慮が提唱されています。
平成28年4月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が 施行され、全ての公立学校等において、障害のある幼児児童生徒(以下、「児童 生徒等」と記す)へ、必要に応じて合理的配慮を提供することが義務化されました。(文部科学省のサイトより引用)
この合理的配慮の具体例から、特に情緒障害と発達障害に関連するものを抜き出してみました。
- 情緒障害に関しては、個別学習や情緒安定のための小部屋等の確保や、その子の対人関係の状態に対する配慮(選択性かん黙や自信喪失などにより人前では話せない場合など)を考えるようになっています。
- また、LD、ADHD、自閉症等の発達障害においては、クールダウンするための小部屋等の確保の他、個別指導のためのコンピュータ、デジタル教材、小部屋等の確保や、口頭による指導だけでなく、板書、メモ等による情報掲示を、合理的配慮として取り上げています。
簡単にいってしまうと、公教育の中で、できるだけその子に合った工夫をして、必要に応じ個別指導ができるというのが、[特別支援教育]です。
さらに言うならば、特別支援教育は本来どの子にも優しい教育体制(指導)と言えます。
その理由は、子供一人ひとりの考え方や物の捉え方、行動の特性をよく知り、その子にとって分かりやすい方法で教えることでもあるからです。
ところが、特別支援教育の実際はあまり知られていません。
そのため、保護者の中には面談などで[特別支援教育]に関する話題が出るだけで、「レッテルを貼られる」と誤解したり、「うちの子は何も問題ない」と全く意に介さないご家庭もあります。
これは非常に残念なことです。
周囲の大人がまず発達障害について正しい理解をしていかないと、当事者のお子さんの困難さは軽減されません。
20数年前から問題になってきた小・中学生の「不登校」に関しても、この[発達障害]が原因の一つに挙げられるケースは決して少なくありません。
中学校で不登校だった子供たちの多くが何らかの発達の問題を抱えていたり、それを理解されなかったために二次障害を起こしていたこともわかりました、
発達障害は決して子供自身の責任ではなく、また子供一人の頑張りで改善できるものではないことも念頭に置いて、子どもたちに適切な教育の機会を与える手段の一つとして、「特別支援教育」に関心を持っていただきたいと思います。
特別支援教育(特に発達障害)の実際の現場に関して、もう少し詳しくご紹介していきます。
特別支援教育の特徴
特別支援教育は対象児童にとって適切な指導を受けられるように、いろいろな工夫がされています。
その特徴としては、以下のようなことが挙げられます。
①出来ない部分あるいは困難な問題へのリサーチ
②予想(仮説)を立てて観察し直す
③②の検証結果から適切なワークを選ぶ
④時間での振り返りを本人と共に行なう
⑤家庭や担任にフィードバックする
①まず、申請が出された段階で、教室の様子などを観察したり、保護者との面談を行なって、情報を集めます。
これは、子どもがうまくクラス授業に適応できていない時、その背景には何があるのかを探るために重要です。
また、どのような場面で集団生活に適応しづらいのかも保護者や担任から聴き取ります。
この聴き取りは、個別指導の希望申請をした時だけでなく、実際の指導が始まってからも、対象児に年間の≪個別指導計画≫を設定するために行われます。
②特別支援の対象児となるためには事前にWISC-Ⅳなどの検査が必要です。
この検査では、どのような分野での困難さがあるか、その逆にどんなことは得意であるかがわかるようになります。
そのデータを参考にしながら、実際に個別指導の体験を行ない、子供の反応を見てその子にとって適切な教育態勢はどのようなものかを判断します。
さらに、実際のクラス授業の場での観察をして、どんなつまずき方をするのか、問題が起こる場面での反応や行動を見ていきます。
③個別指導の申請が受理され、対象になった児童に関しては、②に基づいて専門的な見地から仮説を立てて、慎重に活動・ワークを選び個別指導の定期的な実践に移ります。
この活動・ワークとは、プリント学習だけでなくゲームをしながら必要なスキルを体験したり、身体運動をすることで身体の感覚を刺激していくことも含まれます。
さらに個別指導での体験が教室に戻ってから生かされるように、今課題として必要なことを学級担任や保護者と打ち合わせしながら、個別のメニューに盛り込んでいきます。
年間に30回程度の個別指導が予定されています。
(学校行事や校外学習などの日程と重なる場合は、学校側の予定を優先するので、どうしても年間の時間数が限られてしまいます。)
④ひとコマ(45分程度)の指導の締めくくりには、その時の活動・ワークの振り返りをして、どんなことを頑張れたかを、児童と担当教員とが共に確認します。
特にこの「振り返り」は重要です。
通常学級の集団授業ではなかなか1人一人に、授業の目的や成果を意識させることは難しいのですが、「なぜここで勉強しているか」を意識しながらの活動なので、必ず行うものです。
クラスでは他の子につられて騒いでしまう傾向のある子も、マンツーマンの指導では自分を素直に認めやすくなります。
⑤活動・ワークの内容に関しては毎回、その児童の担当教員から保護者と担任に対して連絡ノートの形で伝えて行きます。
担任からはクラス授業での様子も伝えられ、保護者からは家庭での様子が同じくノートに記入されて行きます。
個別指導の担当教員は、戻ってきた連絡ノートでクラスや家での子どもの様子を確認し、次の個別指導に反映させていきます。
このような形で毎回の個別指導の内容を相互に情報共有しています。
誰にでも適する指導法である理由とは
特別支援教育の実際を知ると、これは本来どのような子にも大事な教育活動であることが理解できます。
教える大人側と教わる子ども側からの2つの面で考えていきます。
教わる側の利点(子ども側)
1.個別指導なので、落ち着いて取り組める。
マンツーマンの指導なので、他の子のことを気にせずに集中できるのは最大の利点です。
クラス授業では周囲からの刺激で先生の指示に集中できない子どもが多く、目の前で自分だけの先生に習うことはたいへん大きな意味があります。
基本的にできるところを強化して成功体験を積ませるので、達成感があります。
補助的な道具や方法を使えるので、困ったままでいる場面が無いことも集中できる要素です。
素直な気持ちでわからないことを聞いたり、難しかったという感想が言えるのも、子供にとっては安心できる場所となります。
「ヘルプ」が出せることは、子供の成長にとって大人が思う以上に大事なことなのです。
2.振り返りをすることで、自己肯定感が高まる。
指導教員は小さなことでも良いことは褒めて励ましているので、子供自身の自己評価が次第に変わってきます。
学習への苦手意識からクラスではできるだけ目立たぬようにしていた子も個別指導では次第に積極性を取り戻します。
出来ることが増えていくので、自分の苦手なことや間違えやすい行動も受け入れることができるようになります。さらにそれを改善していくことで、自己評価や自己肯定感が高まります。
短期間で努力したら出来るようになったことや良い方に進んでいることが実感できるので、自分のことをきちんと考える習慣がつき、やる気になります。
教える側の利点(大人側)
1.その子に応じたメニューつくりが可能である。
身体面、社会性面、学習面を考えて、その子にあった課題をやらせることができるのは、個別指導ならではの利点です。
苦手なものに関しては、少し学年を下げたレベルのところからの確認もでき、教材もその子に適したものを選んで指導することができます。
進むペースもその子に合わせていくので、安定して取り組ませられることができ、結果的には大きな成果を生みます。
特別支援用の教材もだいぶ出版されてきたので、様々な教材を工夫して活用することが可能です。
2.伸びるところを認めていくので、相互関係が良好になる。
マンツーマンで見てくれる先生と言うことで、子供からの信頼感が高くなります。
中には、担当教員には悩み事も話せるという子も出てきます。
信頼関係が築けることにより、こどもの意識を自己の内面に向けさせることが可能になります。
3.こどもの特性や変化に敏感になり、対応がさらに適切になる
個人の成長をまず先に考えるので、ペースを子供に合わせやすい環境です。
一人を最低一年間は担当するので、変化もよく分かり、担当児童を理解しやすいのは特別支援の利点です。
そのため、以前学級担任もしたことのある特別支援教員は、新たな視点で子供たちを見ることができるようになったと、この指導体験の重要性を高く評価しています。
特別支援教育で扱う内容の一部紹介
特別支援教育で扱う範囲は多岐にわたり、様々な児童の状況に対応していく必要があります。
活動・ワークを含む練習の場となるので、ここではトレーニングと言う言葉で説明します。
A:身体(感覚統合を含む)に関するトレーニング
B:ソーシャルスキルのトレーニング
C:読み書きに関するトレーニング
Aの「身体(感覚統合を含む)に関するトレーニング」では身体の協調運動やビジョントレーニング、感覚統合がその内容となります。
いわゆる発達性協調運動障害とされる、様々な身体運動の困難さに関するトレーニングです。
子供の苦手とするものへの困難さを軽減するための基礎的な準備運動や動きを取り入れています。
人の運動には、粗大運動という主に姿勢と移動に関する運動領域と 微細運動という指先などの細かい動きに関する領域があります。
幼児期から就学期にかけてこの領域の困難さが目立つようになります。
姿勢保持が続かない子や、よく転ぶ子は早めにトレーニングで体幹を鍛えることが必要となります。
また縄跳びが苦手、ボール投げが苦手な子は脳と運動器官の連携でのトレーンングを必要としています。
Bの「ソーシャルスキルのトレーニング」では同世代の仲間とのコミュニケーションや、状況に応じた行動をとること、社会規範の意識もその内容に含まれます。
こんなときにはどうしたらよいか。こういう反応をした相手はどんなことを考えていたのか などを知るトレーニングをします。
特に周囲とトラブルを起こしやすい子の場合には、ゆっくり時間をかけて学んでいくことが必要です。
自分と他人の違いに気づいて、他者視点で考えるような機会を持つことで、理解できるようになります。
グループで行なうゲームの時間などでは、実践の場としての機会になります。
それまであまり見られなかった他者への心遣いを見せた場面では、すかさず担当教員がその行為を認めて褒めるので、タイミングやことばの使い方を実践で学んでいるわけです。
Cの「読み書きに関するトレーニング」では音読や漢字書き取りで困難さを感じている子への指導です。
何度注意しても字が汚くなってしまったり、漢字がなかなか覚えられない子も該当します。
ていねいに間違え方も本人と共に確認し、どのような間違えをしやすいのかも、理解させます。
板書の写しに苦労する子への対策も、クラス授業で可能な範囲での工夫を考えていきます。
作文が苦手な子への、助詞の使い方や語彙を増やすことなど、国語の領域に入る内容も含めます。
さらに、音読のトレーニングでは文節にマークを入れたり、読んでいる文章のみを視野に入れやすい工夫についても教えていきます。
まとめ
このように、細かな配慮を基に子ども一人ひとりの個別メニューを考えて、特別支援教育の≪巡回指導≫は行われています。
もしもお子さんが「 校内での 特別支援 を受けてみられたらどうか 」 と学校から言われたら、驚かれるかもしれませんが、どうか前向きに検討してください。
このような特別に配慮された指導の機会を得ることが出来るのは、まだまだほんの一部の恵まれたお子さんです。
ご家庭での理解があってこそ、子供たちは自分にあった指導を受ける機会が得られることになります。
公教育なので、公平を期するために専門家を交えた検討委員会が行われ、申請から受理までは、ほぼ2か月かかります。
手続等で時間がかかり、検査も必要だとなると面倒だと感じられることも有るでしょうが、申請が受理されて指導開始となった子供たちはみな楽しく、巡回指導を受けています。
まだまだ始まったばかりの「特別支援教育」≪巡回指導≫制度なので、実践の現場では様々な課題や制度上の問題点も見えてきました。
けれども、本質的には非常に子供たちには穏やかで安心できる指導であることに、変りはありません。
ぜひ、この記事を機会に「特別支援教育」や≪巡回指導≫に関心を持っていただけたらと思います。
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