成績アップの必須条件:「聞く力」を育てるうえで、押さえておきたいポイント

「最近の子どもは聞く力が弱い」、「聞く力を身につけよう」 という話をよく聞きます。

「聞く力」に関しては、私立小学校のお受験コース(私立小学校への受験対策)では、必要不可欠なスキルです。
そのためトレーニング方法として、CDを利用した教材なども出ています。

なぜならば、「聞く力」が十分に育っていると学習面ではかなり有利なこともわかっているからです。

今回はそんな「聞く力」の育て方について、紹介していきます。

 

 

「聞く力」の3段階

 

『聞く力』を重要な3つの段階で考えてみます。段階が進むほど脳内での知的な作業は複雑になります。

  1. 静かに『音』を聞くこと
  2. 聞いた言葉を理解すること
  3. 聞いた言葉を情報として記憶すること

 

 

1)静かに「音」を聞くこと

音を聞くのはヒトの行為の中では非常にシンプルなものでありますが、実は次のような要素をふくんでいます。

 

【衝動性のコントロール】→しゃべりたい、動きたいを我慢できる力

≪しゃべりたい≫≪動きたい≫を我慢しないと、話し手の発する音(=声)を【聞くべき音】として収拾することはできません。

日常生活の中で、私たちの耳には、雑多な音が絶えず届いています。まさに音の洪水のように入り込んできているわけです。

 

一方、動物達は生き残るために、周囲の音に相当注意を払うことが本能として備わっています。

食物連鎖の中では強い立場である肉食獣においても、狩りの時には音を立てないように最大限用心をしながら近づいています。

自分自身が音を出してしまうと、狩りの対象である獲物の音が消え、相手に自分の存在を知らせてしまうからです。

ですから、「音をよく聞く」条件としては 真っ先に自分が音を発せずにいることが重要となります。

音を発しないというのは、声を出さない事だけではありません。動かないでいるのも、余分な音を出さないための条件です。

生存本能の一部として、私たちは「耳を澄ませて音を聞きながら」周囲の状況を理解する基本的な力を備えているはずです。

 

【注意力】→雑多な音から必要な音をより分けて聞くことができる力

さらに一旦耳に飛び込んでくる様々な種類の刺激から、必要な音を選択し聴き取っていくこともしなければなりません。

聞くべき情報と同じ音色(おんしょく)や高さなのか。

人の声であるか、または物質の出す音なのかどうかの判別も瞬時に行い、必要なものだけを抽出しています。

音のより分けも、第一段階での脳の作業です。

 

【集中力】→パターンや音の内容、などの情報を取り入れる

ある音を一度「聞くべき音」「注意を払う音」と認識した後は、それがどの程度続くのか時間経過の中で追跡し、注意を維持し続け無ければなりません。

注意を払い続ける、神経をそこに配り続けるには、他のことに気を取られないでいる集中力が重要になります。

また、≪声の大きさが変わっても同じヒトの声であるかどうか≫や、イントネーションの類のような、ある種のパターンを見付け出し、それらを同一の音源からのものと理解し追跡し続けるのも、集中力が成せる作業です。

単に「音」を聞くだけでも、このように脳内ではいくつものセンサーが連動して情報を収集し、整理しているということです。

 

 

2)聞いた言葉を理解すること

第一段階ではまだ「音の聞き分」の領域でしたが、第二段階ではそれらの情報(ヒトの音声)を「意味のある声やことば」として内容を理解する領域に進みます。つまり言語理解になってきます。

この段階では、前もって体験し(学習)した知識との関連性を構築していきます。

記憶の中にある知識や経験と結びつかない限り、ヒトの音声とはいえ、意味を理解することはできません。

全く聞いたことのないような国の言語で話されても、さっぱり意味が分からない と言う現象です。

耳に届いた声の中に、自分の知識の中に蓄えられた無数のことばと符合するものを見いだした時、ヒトは初めて聞こえたことばの意味を理解するわけです。

 

【理解力】→ 話し手の言葉から意図や心情を読み取る

一つ一つの単語がつながり、文節さらに文章となった後で、相手の意図や気持ちを理解するのも、第二段階で行なわれています。

時には第一段階でキャッチしている「声の調子」という音レベルの情報と照らし合わせて、「今、相手は怒っている」とか「自分は何かをお願いされているようだ」ということもわかることになります。

ここでは、話し相手によっては同じ言葉でも異なるニュアンスで用いていることも、経験していきます。

この場での理解力とは、相手の立場になって考えてみる、つまり想像する力も伴っていると言えます。

【語彙力】→前後のつながりから新しい言葉も理解する

さらにヒトの能力の高さは、新しく初めて聞いた言葉を前後の言葉・文節・流れから推測し、知識として同時に吸収して理解することです。

こうして会話の中でもどんどん新しい言葉を理解していきます。つまり語彙力が働いているのです。

年齢の低いわりに大人びた言葉を知っていて使いたがる子がいますが、きっとこの語彙力が優れていることと、なぜか難解な言葉に興味を惹かれていく性格が、こういう言葉遣いをしている原因だと考えられます。

なかには「この言葉の響きが好きなの」と、大人びたことばを使う気持ちを教えてくれる子も少なくありません。

 

3)聞いた言葉を情報として記憶すること

聴覚的な記憶力 とは、耳から吸収し理解した情報を、すばやく上手に整理して記憶領域にとどめていく力です。

すばやさが求められるのは、文字などの視覚情報と異なり、聴覚からの情報はどんどん消えていってしまうからです。

この消えてしまう情報に対応すべく、三段階のいずれの段階においても脳内ではものすごく速い処理が行われていると考えられます。

さらに視覚的な情報とリンクさせて体験したことを知識として蓄えるのですから、子どもの吸収力は計り知れないほどすごいものだと言えます。

 

「聞く力」はこのように、様々な大事な要素を含んでいるため、「聞く力」が育っていない子はどうしても注意散漫となり、一斉指導の学習場面でも、他の子に比べ後れが出ていきます。その背景にあるものは、情報収集機能の問題かもしれませんし、雑音の排除が難しいのかもしれません。

また、話される言葉や指示に集中できず、理解もあやふやになれば、言うまでもなく「授業は退屈でつまらない」と感じてしまいます。すでに知っている言葉と関連付けることができないと、おぼえる新規の言葉は無限大に広まるため、いっそう記憶することも困難になるのは、当然の流れだと言えます。

学習嫌いになった子の多くは、「聞く力」が不十分な子と合致し、そのまま何の手立てもなかったため、学習嫌いになったとも考えられます。

 

 

 

「聞く力」を育てておくと役立つこと

 

 

 

聞く力が育っていると、日常生活の様々な場面で活かされるので、効果が表れます。。

コミュニケーションが上手になるのはもちろん、集中力がアップするので聞きもらすことがみるみる減ってきます。

また、意外にも作文を書く際にも、育ってきた「聞く力」が効力を発揮していくのです。

 

1)コミュニケーションが上手になる

「聞く力」が育っている子は、友達関係のなかでも、相手の話をちゃんと聞くことができる子になります。

そして相手の話の内容にも適切な反応ができます。

こういうことの会話は楽しいので、友人関係も安定しています。

こども同士の評価の中では「ちゃんと話を聞いてくれる人」と認知されます。

そして周りの子から「優しい人」「気持ちをわかってくれる人」と信頼してもらえます。

コミュニケーションが苦手な子の様子を見ていると、誤解されるような行動をとってしまいがちです。

会話していてもきちんと相手の話を聞かなかったり、勝手な行動に移ってしまいがちです。

相手が一生懸命わかってもらおうと説明しているのに、その場を離れてしまったり、よその子を見ている等、「自分勝手な人」ととられる行動が見受けられます。

やはりおともだち関係が上手にできるのは、よく相手の話を聞き共感できる子だと言えます。

 

2)集中力が上がり、聞きもらしが減る

「聞く力」の段階(脳内プロセス)の項目でも、聞くこと自体ですでに相当の集中力を使っていることをお伝えしました。

「聞く力」が高いということは、集中力の持続できる時間が長いということです。

さらに、聞いた言葉をすばやく脳内で文字変換できたり、話し手の意図を汲み取るのが的確なのも、集中力のおかげです。

高性能でタフな言語センサーを常に良いコンディションで備えているのが、「聞く力」の高い子だとも言えます。

昔から賢い人の例えとして使われる『一を聞いて,十を知る』に表わされるように、高度な脳の動きを伴っているのが「聞く力」なのです。

 

3)作文がうまくなる

読書好きな子が作文を書くのも得意なのは、とても明解な相互関係ですが、「聞く力」も「作文」の場面では大いに役立っています。

「聞く力」がもたらす語彙力は、「話し手」という生きた素材からの蓄積ですから、生き生きとした描写になることは当然の結果です。

情景描写などでは、耳で聞こえてきた音を風景や心情と結びつけることで表現の幅をさらに広げることができます。

 

さらに「人の話を聞く」作業と同時に「なぜだろう?」「どうしてだろう?」という思考が働いているので、自分が感じたことを文章化するのにも苦労しません。

作文の苦手な子の様子を見ると、「いつ、どこへ行った」という事実だけで、その時の自分の気持ちが書けないことが見て取れます。インタビューしても「楽しかった」「良かった」と言う漠然とした言葉しか返らないのです。これでは、2,3行書いたらもう書くことのネタは尽きてしまいます。

「作文が苦手な子はどうしたらよいのか」のご質問を受けることが多いですが、「聞く力」と関連していることをお伝えしていくと、ほとんどの保護者が驚かれ、その後納得されます。

 

先ほども書きましたが、脳内での処理スピードが速くなっているのが「聞く力」の高い状態なので、校外学習などでも役立ちます。聴き取りメモを取る場合でも、スラスラとメモを残すことができるだけでなく、キーワードのみのメモでもそれを文章に膨らませてけるのは、「聞く力」での情報収集がスムーズに行われているおかげです。

このように、作文の材料となるものがいたるところから収集できるのも、「聞く力」が育っている子の強みです。

 

 

子どもが「聞く力」を学ぶ場面

子どもたちが「聞く力」をまなんでいるのは、実は身近な家庭での会話がほとんどです。気兼ねなく話せる関係性の中でこそ、学んでいると言えます。

そして、おうちの大人たち、特にお母さんは一番の聞き上手のモデルとなって、こどもの「聞く力」に貢献しています。

 

1)身近な家庭内での会話

日頃からお父さんとお母さんの日常での会話を聞くことで、幼い子供たちは毎日言葉を学んでいきます。

 

ヒトの聴覚は胎児のときから機能し始めています。【胎教に音楽を聞かせると良い】というのもこのためです。

胎児の時には羊水の中に居るのでクリアな音ではないのですが、それでもヒト同士の会話は赤ちゃんにはちゃんときこえているそうです。

この世に生まれてくると、赤ちゃんの聴覚はすごい勢いで成長します。

赤ちゃんがじっと大人の目を見て話しを聞いているのは、耳と目でたくさんのことを一生懸命吸収しているからです。

ヒトとしての関わりを始め、会話に至る前の段階で、耳からの情報はとても大事です。

 

一つ一つの場面で、お父さん・お母さんのしぐさや表情や、感情までも 子どもたちは吸収しています。

おしゃまな女の子がお母さんそっくりの口調でおままごとをするのも、こういう耳からの情報を蓄積し、さらに再現しているわけです。あまりにも的確な言葉遣いなので驚かされることもあります。

両親が多忙で祖父母が面倒を見ている子になかには、話す口調もゆったりしている子が見受けられます。

子どもたちが「聞く力」を使って、話す速さまで模倣・習得していることが、こんな例でもわかります。

 

 

2)聞き上手の一番のモデルは、お母さん

赤ちゃんが泣いているとお母さんがあやしてくれる時、抱っこされて声をかけられることで、赤ちゃんは安心感を得ます。一連のお母さんの行動が、赤ちゃんの「ヒトへの信頼関係」も作っているのです。

さらに子どもたちは自分が言葉を覚えて扱うようになると、自分の言葉に対する大人の反応も、その都度捉えていきます。

つまり、聞き手としてモデリングしているわけです。

自分のお話をゆったりと向き合って聞いてくれるお母さんの姿に、子供は安心感を得るので、同じようにお話を聞く態度を身につけます。

意識的に子どものお話を耳を傾けてくださっているおうちのお子さんは、こどもの集団内のなかでも気持ちも安定しています。

もちろん、聞き上手なおじいちゃま、おばあちゃまの存在も大きいです。温かく愛情深く接してくれて、話を聞いてくれる大人の存在は、子供の成長にとって何物にも代えがたく、とても重要なのです。

 

お子さんの行動やことばが少し荒れている時こそ、この「上手な聞き手の聞く力」が効力を持ちます。

子ども自身はざわついている自分の気持ちに振回されており、それをことばで上手に伝えられなくて、反抗的になったりいさかいを起こしたりすることが少なくありません。

もし、「どうして最近は以前のように、素直ではないんだろう?」「こんなに言うことを聞かない子だったのか?」と悩まれるときには、お話を聞くモデルとしてのお母さんやお父さんの日常を、振り返ってみることを、お勧めします。

 

 

「聞くこと」は思った以上に、影響力が強いのです。

最近では小学校でも年に何度か「聴き取りテスト」を行なっています。

このテストは主に前述の3大要素のうちの、3)記憶力 が向上しているか の判定になっていますが、聞く力が足りない子はきょろきょろと落ちつかなく、音声だけに集中する習慣がない事が見て取れます。

このように学校の現場でも、子供たちの「聞く力」を重視した授業を行なう方針を取っているので、聞き取りテストの結果が芳しくない場合には、ご家庭で何らかの対応策を考える必要があります。

 

このようなことを踏まえ、おうちでもすぐにできる、聴く力アップのためのいくつかの方向を次にお伝えします。

 

 

普段の生活で「聞く力」を養うには

わが子の「聞く力」が十分でないと感じると、早急に教材などで勉強させたくなる親御さんがおられます。

また、「もっとちゃんと聞きなさい」「なんできちんと聞けないの?!」と叱咤激励は明らかに間違った声掛けです。

この記事でみてきたとおり、子どもの「聞く力」のどんなところが未熟なのかをきちんと把握しないと、ますます聞く耳を持たない子を作ってしまいます。

特別な勉強をさせる前に、まずはおうちで取り組める「聞く力」アップ方法をお伝えします。

 

1)日常の親子の会話を豊かにしよう

まずは会話の機会を増やしましょう。

できるだけ子供が話す場面を増やします。おうちの方は上手に質問を投げかけてください。

こういう機会を積み重ねていくと、次第に子供は話す順番を考えながら、続けていくことができるようになります。

一見、「話す力」を学んでいるように思えますが、それだけではありません。どんな聞き方をされたら答えやすかったのかも、子どもたちはちゃんと学んでいます。

まじめすぎるご家庭では、親子の会話は必要なことを決めるときに、双方とも緊張して家族会議のようなものになることがあります。このようなおうちのお母様にお聞きすると、「自分自身もあまり親と楽しい会話をした覚えがない」と振り返っておられました。

これでは聞き上手や話し上手になれるわけがありません。

内容はどんなものでもかまわないので、楽しい会話を心掛けてください。

 

2)共感できる体験を増やそう

たのしい体験、ワクワク・ドキドキする体験は、子どもの心に強い印象を残します。

家族で一緒に過ごすイベントなどは、普段子供と話す時間の限られるお父さんにとっても、絶好の機会ですね。

例えば、旅行で見知らぬ土地で止まった夜などには、「周りの音に耳を傾ける」最良のチャンスです。

車の音がほとんどしない、虫の声が聞こえてくる、林の中に風のわたる音が聞こえる、どこかでせせらぎのかすかな音がする…etc.

注意力、集中力をフル回転させると、色々な音の存在に気づくことができます。

夏休みには旅行先で花火やバーベキュー、キャンプファイア^を楽しむご家族も多いと思います。

これからは、ここでご紹介したような「耳を傾ける時間」も組み込んでください。聴こえてきた音について、親子で語り合ったひと時もまた、良い思い出になるはずです。

スポーツ体験や釣りなどの趣味の場面でも、大人が意識的に音のことを話題にすると。子どものなかでの音への興味・関心が広がります。それが家族と体験した楽しい場面に結びつけば、さらに記憶に残るでしょう。

このようにして「聞く」楽しさをこどもたちに伝えてあげることが、「聞く力」を育てる土台になります。

 

3)子どもを褒めるときに、「聞くこと」への褒めポイントを増やそう

今まではあまり触れていなかった「聞く力」に関することも、これからはお子さんの褒めポイントに加えましょう。

例えば

「さすが!静かにお話を最後まで聞くようになったね!」

「お話をきちんと聞いてくれて、ありがとう!」

「一回聞いただけで出来るなんて、ずいぶん聞き上手になったね!」

「泣いているお友達にやさしく『どうしたの?』って聞いてあげたから、お母さんはとっても嬉しかったよ」

「あなたとのおしゃべりが、お母さんには楽しい時間なんだよ。また、話そうね」   などなど。

 

大人が注目してよい評価を伝える事は、その子の良さを認めることです。

自分が認めてもらえると誰でも自己肯定感があがってきます。

そして、さらにそういう褒められる場面を増やしたくなるのが、人間の心理です。

今までは「聞く」事にほとんど関心を払わなかった子どもでも、こういう風に褒められることで、「聞く」ことの大切さを知るようになります。

「聞く」ことの大切さを知らないから、「聞く事」に注意を払わない子もいるので、ぜひおうちで「聞く力」の向上を認めてあげましょう。

その基本姿勢を作れるのは、ほかならぬご家庭です。

お子様との楽しい体験やおしゃべりの機会を増やし、ぜひ「聞く力」の備わった聞き上手なお子さんにしてあげましょう。

 

 

 

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